中山研究室

高圧力で物質の性質が変わる!―エキゾチックな高圧水素の物理―

中山 敦子

教授 中山 敦子

圧力は物質の状態を決める重要な物理量の一つです。深さ10kmの海溝の底で1千気圧、ダイヤモンドが採掘される地表から100kmの深さで4〜10万気圧、地球中心部(=深さ6400km)で360万気圧、木星中心部で1.5億気圧、太陽中心部で5億気圧が生じていると言われています。ダイヤモンドを使ってギガパスカル(GPa)級の圧力(1GPa=1万気圧)を物質に加えれば、極限環境で現れる “物質の性質(=物性)”が調べられます。

水素は、低温に冷やして液化し、圧力をかけて体積を700分の1に圧縮してから、大量輸送・貯蔵されています。水素を常圧下で液化する液化過程で、発熱反応であるオルソ水素からパラ水素への転換速度(通常は数日間かかる)の高速化が重要課題となっています。(オルソ水素、パラ水素は、水素の核スピンの向きが異なる異性体)最近、私たちは、水素分子の回転、および振動モードの圧力変化から、560MPaでの超臨界流体・低圧相から超臨界流体・高圧相への転移を明らかにしました。これまで超臨界流体相(=気体と液体が混ざりあった状態)は、物理的に均一な状態(液体と気体の違いがなく、圧力や温度によって著しい変化や明確な変化をしない状態)と考えられていました。また、超臨界流体・高圧相ではオルソ水素とパラ水素の存在比が変化し、無触媒で瞬時にオルソーパラ転換が進行することを明らかにし、転換機構解明の手がかりを得ました。超臨界流体相の研究が進み、水素の製造・貯蔵で問題となる蒸発問題を回避するシステムの解明が進展すれば、水素エネルギーの利用がより身近なものになると期待されます。

水素の状態図
水素の状態図(破線は既知の結果の外挿)、Frenkel線はこの10年のガス惑星の研究で明らかになった動的相転移(気体と流体が混ざったような状態から硬い流体の状態への転移)を示している
回転、振動スペクトルのストークス線𝑆₀(𝐽)、𝑄₁(𝐽)を与えるエネルギー遷移(𝐽、𝑣は回転、振動量子数)
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